設立趣旨と活動内容

 汽水域は、海陸双方からの影響、気象条件、及び人為的なインパクトが複雑に絡み合った変動系の中で微妙なバランスを保ちながら成立しています。汽水域は陸域からの栄養塩負荷が集積されるため富栄養化が進行しやすく、塩分躍層の存在もあるため、貧~無酸素環境になりやすい特性を持っています。このような特徴は、淡水域や海洋ではあまり見られない固有のものです。また、汽水域は私たちの生活の場である平野部に存在するため、人類の歴史とともに絶えず変化してきています。近年は、大規模公共事業による湖岸・湖底地形の改変、流入河川の改修・付け替え、生活排水による汚濁など、人類による環境改変が特に著しい水域となっています。そのような人為改変により水域環境が著しく劣化し、汽水域固有の生物群が危機的な状況になっています。最近では、このような状況におかれた水域環境に対する住民意識が高まっており、環境保全・修復を目的とした住民・行政活動が行われるようになってきました。しかしながら、著しく劣化した環境を修復するには、科学的なデータに基づいた現状の正確な把握と明確なビジョンが必要となります。
 このような情勢の中、日本における汽水域関連の研究は、失われた水域の回復を目指すといった国内の社会的な要請に対して、どのような体制で行われてきたのでしょうか? 多く学会や複数の研究施設、また汽水域と関連の深い地域では、汽水域の重要性を理解し、活発な研究が行われていることは、誰もが認めていることと思います。しかしながら、汽水域の研究は自然科学から社会科学まで広範囲にわたる研究領域が交錯しているため、個々の研究分野・地域だけでは、そのような社会的要請に対して十分に対応しきれていません。このような状況から汽水域研究を新しい展開に導いていくには、多岐にわたる研究領域間で情報を共有し、英知を結集する必要があります。特に普段なじみのない研究領域間、また汽水域を持つ地域間での交流は、汽水域研究の発展のため必要不可欠でしょう。また、新たな汽水域研究を展開するには、多岐にわたる研究領域を結集した調査研究の企画を立案し、実行することも必要になると思います。
 その第一歩として、国内および国外の関連する研究者や研究機関等と連携し、全国の陸水や内湾を含めた汽水域の総合的な分野である汽水域研究を推進するための会(汽水域研究会)を設立することにしました。汽水域研究会は、国内外の汽水域をフィールドとして研究している個人及び団体を幅広く結集し、学際的な研究領域である「汽水域研究」を発展させ、汽水域の環境保全・修復、持続的な利用などについて検討・提言を行い、社会貢献することを目的としています。また、「汽水域研究会」で得られた研究成果は、国際的な交流を通じて世界に発信することも目標の一つと考えております。